[好評連載中] 樹木医による「土壌のアルカリ化問題」早わかりガイド

■第八回 「フミン酸とフルボ酸」

アルカリ化した現場発生土を植栽に適した土壌に改良するには、化学的にpHを下げ、合わせて良質な有機物の混入が必要である。有機物はその特長の一つとして、外部からの環境変化を一定に保とうとする機能があるが、これが緩衝能であり、高pH土壌の改良に有効な手段となる。

有機物の代表的なものとしては、バーク堆肥や鶏糞・牛糞などの畜糞堆肥があげられる。これらは易分解性有機物といい、土中では植物に必要な栄養素の供給源となる。そのなかでも十分に発酵したもののごく一部、またはピートなどの難分解性有機物は土中で腐植物質へと変化し、緩衝能を発揮することが可能となる。易分解性有機物で未熟なものは、むしろ土中で植物根の呼吸障害や土壌の窒素飢餓を起こす原因となるので要注意といえる。

自然界では、分解していない有機物が土中深くに混入することはほとんどない。従って、腐植物質の基となる有機物を土壌に混合する際は、品質に十分注意しなければならない。それを確認する方法は様々であるが、バーク堆肥は一定の品質基準が設定されていて、9項目のデータで示されている。

それでも分解しきっていない素材が混入するケースもあることから、分解しにくい剪定枝堆肥と同様、バケツに水をはって浮かべてみると、生木かどうかは一目瞭然となる。

畜糞堆肥で発酵が進んだものは無臭・黒色になり肥料分も高い。品質が一定という点では、難分解性有機物のカナダ産ピート、北海道産ピートそれにヤシ繊維ピートなどが使用できる。下水汚泥堆肥は使用限度が3~5%(容量比)と少ないため、有機物の分解補助または肥料としての使用を勧めたい。

良質有機物が土中に混入され分解して腐植物質に変化していくには、「腐植化の進行過程」を経なければならない。

それは土中で微生物の継続的なアタックを受け、より安定した物質へと変化する過程のことである。腐植物質は粘土から砂まで粒径の異なる無機質粒子に結合し、有機・無機複合体を形成して存在する。その要因となる有機物の腐植物質化の可能性を明らかにするためには、有機物から正確に全量腐植物質を分画・抽出しなければならない。これは非常に難しく、その道の第一人者である京都府立大学大学院の米林甲陽教授(現:石川県立大学)にご指導頂き、大変お世話になった。

腐植物質の分画は、有機物にアルカリ溶液を加え、その上澄み液にpH1.2の酸を加えると、沈殿物と上澄み液に分かれる。その沈殿物をフミン酸、溶解している部分をフルボ酸、アルカリやキレート剤で抽出されない腐植物質をヒューミンと呼ぶ。

このように、腐植物質はpHの異なる水に対する可溶性によって便宜的にフミン酸、フルボ酸、ヒューミンに分類されるが、この分画は操作上の定義によるものであり、必ずしも物質群の本質的な違いを表すものではないことが前提となっている。また、フミン酸、フルボ酸はいずれも混合物であり、フミン酸、フルボ酸という純粋物質が存在するわけではないので注意が必要である。

フミン酸・フルボ酸は複雑な分画操作により生成されるが、
それ自体純粋な物質が存在するわけではない。

有機物によるアルカリ緩衝の定量化研究ではカナダ産ピート、北海道産ピートそれにヤシ繊維ピートを使用した。また、対照となる黒土は代表的なものを捜した。西日本では蒜山産黒土を、東日本では瀬谷産黒土を使用した。また、バーク堆肥は発酵程度の違いが、どれだけ緩衝力に影響を与えるものかを明らかにしようと考え、生・半年熟成・2年熟成品を用意して実験を行った。

土壌腐植物質の生成過程

アルカリ化している現場発生土を「低コスト」で改良する手法について→「アルカリメイト」

次回内容

■第九回 「緩衝のメカニズムとその数値化」

なぜ「有機物」や「腐植」がアルカリ土壌に役立つのでしょうか?そこには「緩衝能」といわれる能力が影響します。実験で詳しく調べてみると...。

執筆者プロフィール 木田幸男

1949年生まれ。昭和49年東邦レオへ入社。緑化関連事業部創設、土壌・緑化技術の研究および資材開発を主業務とする。現、専務取締役。日本造園学会全国大会分科会などに話題提供者として参加。産官学の緑化技術のパイプ的役割を果たす。(理学博士、技術士[都市及び地方計画]、樹木医[No.26]、日本緑化工学会理事、元日本樹木医会副会長)